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熱中症予防のために大切なこと。メジャーリーグで働くトレーナーの研究

2014年08月19日

いや〜お盆を過ぎても暑い日が続いています。 こんな暑い日は熱中症に十分に注意したいですよね。 ニュースなどでも、「本日は熱中症で延べ○○○人が病院に搬送されました」などど報道されていたりしますが、 しっかりと水分とミネラルをとって対策をしたいものです。 みなさんはスポーツをしていたり、長時間身体を動かしたりしているときに、ふくらはぎが「つった(けいれんした)」ことはありませんか。 ふくらはぎやその他の部分がつるのは、実は熱けいれんと言われる熱中症の一つなんです。 一度、熱けいれんを起こしてしまうと、ちょっと休んだだけでは、回復せず、また走ったり動き出したりすると、 何度も「つって」しまい、本来のパフォーマンスが発揮できない、活動が継続できないということになってしまいます。 アメリカのアスレティックトレーナー・スポーツ医学の中でも、ホットトピックである熱中症。こ の研究発表がこのほどNATAシンポジウムにて、地元テレビ局の取材も入る中で行われました。 その中で臆することなく流暢な英語で発表したのが金村幸治さんです。 その直後、発表の内容とともにお話を聞いたので、ご紹介しましょう。 【プロフィール】 名前:金村幸治(かねむら こうじ) 職場:Miami Marlins 主な資格・経歴:MAT, ATC/LAT, FMSⅡ 福岡県立小倉高等学校卒 早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科卒 University of Arkansas, Fayetteville 修士過程 Master of Athletic Training 修了 MLB Kansas City Royalsのマイナーリーグチームにて大学院生ATインターンとして2シーズン活動 CIMG1638 他の発表者の発表を聞く金村氏 CIMG1642 自ら行った研究について発表する金村氏 CIMG1647 発表終了後の金村氏と 石塚「現在、どのようなチーム(施設)でどんな選手を指導していますか?」 金村「MLBの Miami Marlins のスプリングトレーニング施設にて Seasonal Assistant Athletic Trainer として働いています。 ここはトレーニングの施設で、主に故障者リスト入りした選手のリハビリ及びコンディショニングを補佐を担当してます。また、マイナーリーグのルーキーレベルにてアスレティックトレーナーの補佐もしています。私がみている野球選手は、入団したばかりのルーキー、英語がほとんど喋れないラテン系の選手、マイナーで経験を積んでメジャーまであとすこしの選手、メジャーの登録選手枠に入っている中堅選手、通算2,000本以上ヒットを打っているベテラン、100勝以上しているピッチャー、日本でもプレーしたことのある選手、と実に様々ですね」 石塚「リハビリやコンディショニング指導において最も大切にしていることは何でしょうか」 金村「ありきたりかもしれませんが、アスリートとの信頼関係です。リハビリを担当するときは、自分はケガやリハビリ自体に対して仕事をしているのではなくて、リハビリ中の一人の人間を相手にしているのだということを意識するよう心がけています。自分自身もアスレティックトレーナーというプロフェッショナルである以上、その意思や考えは伝えなければいけませんが、同時にそこにいるアスリートの気持ちも考えなければいけません。アスリートには全てのトリートメント、コンディショニング、トレーニングに理解・納得をしてもらった上で能動的にリハビリやコンディショニングに取り組んでもらえるよう、表現、言葉、仕草、などひとつひとつに気をつけるようにしています」 石塚「『コア』をどのようにとらえていますか。またトリートメントやリハビリの中で選手にはどのように伝えていますか」 金村「何がコアか、どこまでがコアかというのは未だに議論がある内容だとは思いますが、個人的には動き中でメインの役割を担う身体の部分以外の全てをコアと認識しています。例えば、野球のピッチングで言えば指の先から肩あたりまでが動作の主な部分、あとは足の先、膝、腰、胸部から頭まで含めて全てコアと捉えていいのではないかなと思っています。そして、コアトレーニングについては全身の協調性トレーニングと認識しています。一口に「コアトレーニング」というと、多くのアスリートがとりあえず体の中心あたりの筋肉を鍛えればいいのか、固めればいいのかと考えてしまいがちだと思います。私はコアトレーニングと呼ばれるもの一つ一つが日常やスポーツの動作やにいかに結びついているかに注目するようにしています。ある一定の動きを支え続けるだけの筋持久力はあるか、必要に応じて筋肉の緊張だけでなくと脱力もコントロールできるか、手足の長さ、頭の大きさ、体脂肪のつきかたなどの違いにもとづいて個人に合わせたトレーニング内容になっているか、など、興味は尽きません。 選手にも日常・スポーツ動作のことを考えてコアトレーニングをするように伝えています。一見シンプルな肘付きのプランク一つとっても、例えば顎の位置が上がり気味な選手などには「仮にこれが起立している状態だとしてその首の角度はおかしくないか」というふうに、必要となる動作や姿勢を意識させることで、うつ伏せで筋肉を固めるだけのトレーニングにならないように気をつけさせています」 石塚「日本ではアスレティックトレーナーの立場や制度が確立されていないので、アスレティックトレーナーの恩恵を受けられる選手が多くはありません。日本の子供たちやスポーツ選手に向けて伝えたいメッセージをお願いします」 金村「日本ではアスレティックトレーナーの制度以前に、しっかりとしたコーチの制度が確立していません。特に学校の部活動ですが、顧問の方々の多くが何の資格も持たずにスポーツ現場の責任を負っていると聞いています。これは今後日本のスポーツが発展していくなかで変えていかなければいけない状況だと思います。スポーツ医学に関して一定の基礎知識や理解をもったコーチ達がスポーツ現場にいることが一般的になってきてようやくアスレティックトレーナーがその地位を確立できるのではないかと考えています。 子どもたちや選手たち、その保護者の方々には、チームを監督する立場にある人物がいかにスポーツを教えるのが上手かということだけでなく、「選手の健康管理について真摯に考えているか」「心肺蘇生やAED使用、救急時の対応に関して基礎的な知識を有しているか」「熱中症や脳震盪の知識を積極的に取り入れてそれを実践しようとしているか」「アスレティックトレーナーのような健康管理の専門家がチームにいるか、もしくは監督がそのような専門家のアドバイスをチーム運営に取り入れているか」などを考慮していただきたいです。そして、アスリートの健康管理についておかしいと思うことはしっかりと発言していって欲しいと思います」 石塚「今回のNATAで発表した研究に関連して日本のみなさんに伝えたいことはありますか」 金村「私の研究は高校生アメリカンフットボール選手を対象としたもので、彼らが日々の練習を開始する直前の体の水分補給状態という面においていかに準備できているか、そして、一回の教育的介入が選手にどのような影響をおよぼすかについて調査したものでした。結果は、(1)41人中8割近くの被験者が軽度以上の水分不足の状態で練習に来ていた。(2)一度、水分補給についての教育及び個人のウォーターボトルを提供をすると、介入から3日後のデータでは練習開始前の水分補給状態が大幅に改善されていた。(3)練習時間以外でもしっかりと水分補給をするようになっていた(4)しかし、3週間後に再度データをとると以前と同じ軽度以上の水分不足の状態に戻っていた。(5)被験者の水分補給や脱水状態に関する知識に大きな変化は見られなかった。というものでした。 アメリカでは多くの州でアメリカンフットボールのシーズン前にアスレティックトレーナーが水分補給についてレクチャーをするように義務付けられていますがその一回のレクチャーではシーズン中を通して選手たちの水分補給状態を適切なものに保つには全く不十分であると今回の研究は示唆していると考えています。また水分補給に関する知識と、実際の水分補給状態及び習慣は相関関係にはないともいえるでしょう。そのため、定期的に練習内だけでなく「日常生活の中での」水分補給に関する注意喚起を行い、選手たちの水分補給に関する意識を常に高めていることが重要ではないかと考えます」 Journal of Athletic Trainingに掲載されている要旨(英文)は以下よりご覧ください。 http://www.nata.org/sites/default/files/Heat-Illness-Abstracts.pdf (現役プロアメフト選手も熱中症の問題とアスレティックトレーナーの貢献について言及。熱中症にならないためというよりも常に高いパフォーマンスを維持するために、水分補給を含めた体調管理には常に心がけているという) 私たちの普段の生活でも、意識しないまま水分が失われています。このことを念頭において、こまめな水分補給をするように心がけましょう。運動をしない場合の飲料は水や麦茶で必要十分です。

石塚利光(NATA-ATC/JCCA-MT/JATI-AATI)

コアコンディショニングリサーチディレクター 石塚利光(NATA-ATC/JCCA-MT/JATI-AATI)

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